鹿児島地方裁判所 昭和49年(ワ)148号 判決 1975年1月27日
原告 東洋観光株式会社
右代表者代表取締役 長野アヤ
右訴訟代理人弁護士 亀田徳一郎
同 井之脇寿一
被告 王進来
右訴訟代理人弁護士 松村仲之助
主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
(一) 被告は原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という)および同目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という)につき、いずれも鹿児島地方法務局昭和四九年四月一八日受付第一七、三三〇号をもってなされた各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二、被告
主文と同旨の判決。
第二、当事者の主張
一、請求原因
(一) 昭和四八年九月一三日、鹿児島地方裁判所は、根抵当権者鹿児島信用金庫の申立に基づき、原告所有の本件土地、建物につき競売手続の開始決定をした。右競売手続において、本件土地、建物は一括して競売に付され、昭和四九年二月二六日実施の第二回競売期日において、被告が最低競売価額を超える三、一〇〇万円で買受けの申出をし、他に競買の申出をしたものはなかった。そして、同年三月二日開かれた競落期日において、被告に対する本件土地、建物の競落許可決定がなされ、右決定が確定して競落代金が完納されたので、鹿児島地方裁判所から鹿児島地方法務局に対し登記の嘱託がなされ、これに基づき、本件土地、建物につき、いずれも同法務局昭和四九年四月一八日受付第一七、三三〇号をもって、右競落を原因とする被告に対する所有権移転登記がなされた。
(二) 原告は、本件土地、建物が競売されることになったので、富重誠に対して、第三者が本件土地、建物を競落する虞れがある場合には同人において競落するよう依頼した。右依頼に基づき、第一回の競売期日には富重自ら競売場に臨んだが、同期日には競買を申出る者がなかった。前記の第二回期日には、富重は都合により自ら競売場に赴くことができなかったため、同人がその友人三名に、前記同様の方法で、第三者が本件土地、建物を競落するのを防止することを依頼した。
(三) ところが、第二回競売期日における競売開始前に、右三名、被告および他数名の右期日に参集した者が競売場の外に集り、その場で被告から、本件土地、建物を被告において競落したいので、他の者は手を引いてほしい、との申出がなされ、右申出を受けた前記富重の友人三名を含む数名の参集者は、被告から日当名下になにがしかの金員を受け取って被告の右申出を了承した。右談合により、右競売期日における競争者が排除されたことによって、時価五、〇〇〇万円は下らない本件土地、建物を、被告は最低競売価額を僅か三〇万円上まわる前記競落価額で競落するに至ったものである。
右のように、本件土地、建物の競売期日における被告の競買の申出は、不正な談合により競争者を排除してなされたものであるから、公序良俗に反する無効なものであり、したがって、被告に対する本件土地、建物の競落許可決定も無効であり、被告に対する本件土地、建物所有権移転の効果を生じ得ないものであるから、本件土地、建物の所有権は、現在なお原告に属している。
(四) よって、原告は被告に対し、本件土地、建物につき、右の無効な競落を原因としてなされた前記各所有権移転登記の抹消登記手続を求める。
二、請求原因に対する被告の答弁
(一) 請求原因(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の事実は知らない。
(三) 同(三)の事実は否認する。
(四) 競売手続に関する瑕疵の主張は競売法により準用される民事訴訟法に定められた、異議、抗告等の競売手続上の不服申立の方法によるべきであり、既に完結した競売手続上の瑕疵を右以外の方法によって主張し、その法律効果を争うことは許されないものというべきである。
理由
一、請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。
二、原告の本訴請求は、競売法による本件土地、建物の競売期日において被告がなした競買の申出が、不正な談合により競争者を排除してなされたことを前提として、右競買の申出およびこれを基礎としてなされたその後の競売手続の無効を理由とするものであるが、右のような競売手続上の瑕疵を理由として、完結した競売手続による競落人の、競落物件の所有権取得の効果を争いうるか否かにつき検討する。
競売期日における最高価競買人の競買の申出が、談合により公正な競争を排除して行われたものである場合には、競売法第三二条第二項により準用される民事訴訟法第六七二条第二号所定の異議事由に該当するものと解せられるから、競落不動産の所有者は利害関係人として、競売法第三二条第二項、民事訴訟法第六七一条により競落期日に出頭して競落許可についての異議を申立てることができ、さらに競落許可決定に対しても、競売法第三二条第二項、民事訴訟法第六八一条第二項により右事由を理由に即時抗告の申立をすることができる。
ところで、競売法およびこれによって準用される民事訴訟法は、競売手続の進行の各段階における不服申立方法を規定しているが、これは競売手続が競売開始決定から競落許可決定、代金納付までの一連の手続によって構成されるものであるため、その手続過程の一部に存した瑕疵により後になって後続手続全部の効力が否定されることによる無駄を省くとともに、競落人や競落人から競落不動産を譲り受けた第三者の地位を不安定なものとすることを防止するため、可能な限り競売手続の進行の各段階ごとに、手続の効力の迅速な確定を図っているものと解せられる。
右のような法の趣旨に照らして考えると、競売手続の一過程を構成する競売期日における最高価競買人の競買の申出が、談合により公正な競争を排除してなされたものである場合には、競売法上前記のような不服申立方法が認められ、これによって、競売不動産が公正な競争により成るべく高価に売却されるという競売不動産所有者の利益の保護を図っているのであるから、前記のような競売法上の不服申立方法以外の方法によって、競売期日における最高価競買人の競買申出が談合によるものであることを理由として、競売手続による競落不動産の所有権移転の効果を争うことはできないものと解するのが相当である。
そうすると、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 寺井忠 裁判官 湯地絋一郎 坂主勉)
<以下省略>